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「昭和の日」雑感 [日本・近代史]

海外に住んでいるので忘れていたが、昨日は「昭和の日」という休日であったことに気付いた。裕仁の誕生日だ。89年に本人が死去した後「みどりの日」と改称、さらに2005年小泉内閣のときに祝日法が改正され、2007年から施行されて現在の名称となった。なぜこの日を今わざわざ祝わねばならないのか、根拠は全く不明だ。

裕仁の祖父である睦仁(明治天皇)の誕生日(11月3日)は、死後から15年を経て「明治節」として1927年に復活し、「臣民ト共ニ永ク天皇ノ遺徳ヲ仰キ明治ノ昭代ヲ追憶」することがうたわれた(「明治節制定ノ詔書」)。戦後は1946年のこの日に新憲法が公布され、名義上それを祝う「文化の日」として48年の祝日法で定められ、今日に至っている。かつて大日本帝国憲法(旧憲法)が紀元節(2月11日。実在しない神武天皇の即位日としてでっちあげられた。現・建国記念の日)に発布されたのと同じように、天皇主義者の吉田茂が新憲法の公布日をわざと明治節に合わせたのかもしれない。

他方、裕仁の父・嘉仁(大正天皇)の誕生日(8月31日)は、祝日として残されることがなかった。なぜ、ひとり裕仁の誕生日だけが、新憲法公布を記念する「文化の日」のような名目すらないのに、露骨にも「昭和の日」の名で祝日として残されているのか?改正祝日法ではその趣旨について、「激動の日々を経て、復興を遂げた昭和の時代を顧み、国の将来に思いをいたす」と説明されている。が、祝日法改正による改名を推進した神社本庁のHPにあるように、「昭和天皇の御事蹟を顧みる」ことを国民に強要することが、支配層の本音だろう。1927年に明治節が制定されたとき、「臣民ト共ニ永ク天皇ノ遺徳ヲ仰キ明治ノ昭代ヲ追憶」することがうたわれたのと、何と似通っていることか。
http://www.jinjahoncho.or.jp/column/000020.html (神社本庁・コラム「昭和の日」)

だがそもそも、裕仁の「御事蹟」とは何か?「昭和の時代」なるものを「顧みる」のであれば、彼が大日本帝国憲法の下で、大元帥として陸海軍を統帥する大権を唯ひとり有していた二十年間に、次々と実施された日本の侵略戦争によって国内外の膨大な人びとが犠牲にされたこと対する彼の責任をこそ、なによりもまず「顧みる」必要がある。それをせずに彼の「御事績」を寿ぐことがいかに欺瞞に満ちているかは、言うまでもない。

「昭和の日」および現行の天皇誕生日のほかにも、現代日本の祝日には天皇制に由来するものが少なくない。建国記念の日(2月11日、戦前の祝日「紀元節」)、春分の日(3月21日頃、戦前の祭日「春季皇霊祭」)、秋分の日(9月23日頃、戦前の祭日「秋季皇霊祭」)、文化の日(11月3日、戦前の祝日「明治節」)、勤労感謝の日(11月23日、戦前の祭日「新嘗祭」)。なお戦前の祝祭日ではないが、1996年から施行された海の日(7月20日、2003年から7月第3月曜日)の起源は、1876年に睦仁(明治天皇)が汽船「明治丸」で北海道・東北地方を巡り7月20日に横浜に帰着したことを記念して、1941年(!)に「海の記念日」とされたことにある。

つまり、現行の15の祝日のうち8つまでが、天皇制とつながりをもっていることになる。人間の生活と労働のあり方を決定する暦において、日本人はいまだに天皇制の時間枠組みに(おそらくほとんどの人は無自覚に)支配され続けている。そしてそれは、戦後日本の支配層が自覚的に行っていることで、21世紀に入りいっそう強化されているのだ。

なお少し前から、成人の日や敬老の日、体育の日などいくつかの祝日は、労働者の連休を増やすため月曜日に移動されている(ハッピーマンデー制度)。しかし、天皇の誕生日に由来する祝日(昭和の日・文化の日・天皇誕生日)と、戦前の祝祭日に由来し天皇制ときわめて深いつながりをもつ4つの祝日(建国記念の日・春分の日・秋分の日・勤労感謝の日)については、決して動かされることがない。とりわけ春季皇霊祭(春分)・秋季皇霊祭(秋分)・新嘗祭(勤労感謝の日)の三つは、皇居宮中三殿で天皇による祭祀が行われる「大祭日」で、首相・衆参両院議長・最高裁長官の「三権の長」もこれにしばしば出席してきた。

支配層がこれらの日付を決して動かそうとしないのは、天皇制と宮中祭祀にまつわるそうした理由がある。「天皇が下々の安泰のために皇祖皇宗(歴代天皇ら自分の祖先神)や天神地祇を祀るありがたい日」というわけだ。天皇制とその「万世一系」神話および祭祀は、日本の支配層が今も国民の統合と支配の正統性根拠として利用し続けている。憲法で定められているはずの政教分離原則が、この国で果たしてどこまで貫徹しているのか、実に疑わしい。

長春だより

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