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中国の老百姓と「安保法案」 [日中関係]

昨日10月1日は、中華人民共和国の成立から66年目の国慶節。中国は一週間の休暇に入り、今日はその二日目だ。
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長春は昨日あたりからめっきり肌寒くなり、今朝の気温は4度。街を行き交う人もコート姿が多くなった。国家の最も重要な祝日ということで、商店にはちらほら五星紅旗が掲げられている。ある日本式ラーメン店など、9月はじめの「抗日戦争勝利記念日」からずっと掲げっぱなしだ。だが今日は強風のためか旗を降ろしている店が多い。

タクシーに乗り、行き先を伝える。発音のせいで、「どこの国の人?」と運転手に聞かれることがたまにある。今日もそうだった。

今からちょうど三年前、2012年の秋に日中間の領土問題が再燃したとき、多くのタクシーが五星紅旗をはためかせて走っていた。その頃、当面タクシーには乗らないほうがいいよ、と知人に忠告されたこともある。件の日本式ラーメン店など、ひらがなの看板や暖簾を隠して営業していた。そうした状態はやがてひと月ほどで収まり、私もタクシーにも乗るようになったが、運転手に「どこの国の人?」と聞かれると、きまり悪げに「マレーシア」とか「タイ」などと言葉を濁したものだ。年が改まった頃から、正直に「日本から」と答えるようにしているが、以来三年間、それが理由で不愉快な思いをしたことは一度もない。友好的にいろいろ話しかけられることがほとんどだ

とはいえ、「どこの国の人?」と問われると、今でも私はやはり緊張する。内心どこか身構える自分を感じながら、おずおずと「日本から」と答える。

運転手「日本の人か。最近、安倍政権のことが話題になっているね。戦争法案だったっけ。多くの人が反対したとか。」

私「そうそう。先月、十数万の人が東京の国会を取り囲んで、戦争法案に反対するデモをしたよ。七割くらいの人がこの法案に反対していますよ。」

運「(うなずきながら)そうか。どこの国でも、老百姓〔庶民〕は戦争なんか起きてもいいことは何もないからね。でも、戦争法はもう通っちゃったんでしょう?」

私「本当に残念です。」

運「とにかく戦争は嫌だね。まあ老百姓は仲良くやっていきましょう。(運賃を受け取りながら)お気をつけて。」

私「ありがとう。」

短い会話だったが、中国の一般庶民の人びとと話して感じるのは、自分たち「老百姓」を権力者からはっきり区別して考えることだ。それは、政治権力から疎外されていることへの諦念というより、下積みで働く者としての、どこか醒めた、それでいて粘り強い心の芯のようなもので、むしろ政治的権利の面で恵まれているはずの日本の多くの人たちが失いかけているものではないかと思う。

「安保法」成立による日本国の武力強化など、中国に住む邦人の「安全」を少しも保障しないどころか、むしろ危険の淵に追いやるものだ。それに比べて、戦争法案に反対する日本の数百万の人びとの大きな動きは、中国のテレビで繰り返し詳しく報道され、中国「老百姓」の日本民衆に対する理解に肯定的な影響をおよぼしたのは確かだ。こうしたことの積み重ねが、結局は私たちの本当の意味での「安全」につながることを、実感する。その意味でも、国会前および各地で行動を起こした方々に、中国に住む者として私は心から感謝したい。
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中国の地域医療に尽くして70年――元日本兵医師の生涯 [日中関係]

2010年12月1日、山東省済南で一人の老人が息を引き取った。山崎宏さん、享年102歳。山崎さんはこの地で七十年近く地域医療に尽くしてきた日本人医師だ。地域の人たちは親しみをこめて彼を「山大夫」と呼ぶ。亡くなった翌朝、山崎さんの小さな家には親族や元患者などが集まり、故人を偲んだ。
http://news.iqilu.com/shandong/yaowen/2010/1202/372356.shtml

中国や香港のメディアの報道によれば、山崎さんの人生行路は次のとおり。

1908年岡山県真庭市生まれ。医業を志すも、1937年7月盧溝橋事件が起き、日中戦争が勃発。まもなく山崎さんも召集され、第10師団歩兵第33旅団に従軍、同年8月天津郊外の塘沽に上陸した。同旅団は天津南方の馬廠付近で中国国民革命軍第29軍と激しい交戦を繰り広げた。山崎さんは後方勤務だったが、前線から送られてくる多数の負傷兵を見るうちに、戦争に対する疑問が頭をもたげた。

11月、部隊が河南省鄭州付近に駐屯していたとき、山崎さんは日本兵が中国の女性から2、3歳の男の子を奪い取って殺そうとしているのを見た。このとき逃亡を決意したという。ある日の晩、歩哨が居眠りしている隙に軍営から逃走。殺したくない、殺されたくない一心だった。飢えつつ放浪する山崎さんに対し、中国民衆は彼の着る軍服から日本兵だと分かっていたが、それでも食べ物を与えてくれた。また疲労困憊してある農家の門前で倒れたとき、農民夫婦は山崎さんを助け、衣服や食べ物まで与えて送り出してくれたという。

山崎さんは日本軍占領下の済南に着き、名を変えて鉄道局の倉庫番の仕事にありついた。ある日上司は、倉庫から物を盗む中国人を捕えて撃ち殺すよう、山崎さんに命じた。しかし山崎さんは、貧困ゆえの盗みだと考え、寝たふりをして盗まれるに任せた。かつて軍営を脱走したときに中国民衆から受けた衣食の恩返しのつもりだったという。

まもなく山崎さんは、河北唐山から済南に逃げてきた中国人女性を妻に娶った。1945年の日本降伏後、山崎さんは故国の家族に自分のことを知らせた。とっくに戦死したものと思っていた家族は山崎さんの生存を知って狂喜したという。兄が帰国を勧めてきたが、しかし山崎さんは断った。「贖罪のためにここに留まり、恩返しせねばならない」と。そして日本で学んだ医学知識を生かし、線路脇に小さな医院を開業した。最初はこの「鬼子大夫」のところに来る患者は少なかったが、貧乏人は無料で診察したので人気を得、しだいに患者も増えてきた。

日中国交正常化の後、日本の大使館員が山崎さんのもとを訪れ、質問した。「今でも中国人はあなたを「鬼子」と呼んでいると聞きますが、あなたはなぜここに留まっているのですか?」山崎さんは次のように答えた。「彼らが恨んでいるのは、あの当時の日本人です。まったくそのとおりなのだから、私はここに留まり日本人を代表して贖罪しなければならないのです。」その後日本政府から毎年送られてくる年金を、山崎さんはほとんどすべて中国の人びとのために寄付した。

土地の人は言う。小さい時病気をするといつも「山大夫」に診てもらった、今では子どもたちも山大夫に診てもらっている、と。

http://qnck.cyol.com/content/2009-11/24/content_2951970.htm
http://v.ifeng.com/documentary/special/riben/#2daaa7a6-4408-4d5e-a958-3681c069098d


山崎さんの遺体は、生前の本人の意志により献体に出されることになった。父親を送り出した後、娘の山雍蘊さんは参列者に向かって深くお辞儀をし、中国人民に対して、父を寛大にも許してくれたことを父に代わって感謝します、と述べた。

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九・一八と現代中国 [日中関係]

9月18日。八十三年前のこの日、満洲事変の発端となった柳条湖事件――日本の関東軍が奉天(現・瀋陽)郊外の鉄道線路を自ら爆破し、中国軍の仕業と嘘をついて攻撃を仕掛け、数か月で満洲(中国東北)全土を武力制圧する口実とした自作自演の陰謀事件――が起きた。「九・一八」の日付の意味するところを知らない中国人はほとんどいないだろう。足を踏んだ側が忘れていようと、踏まれた側はその痛みを容易に忘れることはできない。

瀋陽では今年の九・一八を記念する行事の規模が過去最大になるらしい。中国東北部在住の日本人宛てに、在瀋陽の日本国総領事館から次のような注意喚起のメールがきた。「○外出する際には周囲の状況に注意を払い、広場など大勢の人が集まっているような場所には近づかない。○現地の人と接する際には言動に注意する。○日本人同士で集団となり日本語で騒ぐ等、過度に目立つ行為は慎む。○外務省の危険情報・関連情報等をこまめにチェックする」、等々。

柳条湖事件から八十三年経った現在もなお、過去に日本政府と軍が中国人民に対して犯した罪ゆえに、在中日本人が緊張を強いられるという現実。その責任の一端が、過去の過ちについて真摯に反省しない日本政府、および健忘症の国民多数の態度にあることは、確かだろう。

そして九・一八当日。私の住む部屋は、長春一の目抜き通り「人民大街」(もと「満洲国」の国都「新京」の南北を貫く大動脈「大同大街」として80年前に建設された)に面するアパートにある。午前9時18分、長春市内の防空警報のサイレンが鳴り響くのと同時に、走行中の車がクラクションを鳴らすのはいわば年中行事だ。人民大街のあちこちでもクラクションが鳴らされている。だが、膨大な車が通行しているわりに聞こえてくるのは散発的で、待ち構えていた私にとってはちょっと拍子抜けだ。

長春の経済を支える主要産業は自動車生産で、中国有数の規模を誇っている。トヨタやマツダ系の合弁工場も市内のあちこちにあり、市の経済にとって不可欠の存在だ。市内を走る車のうち、日系メーカーの車は目算で3分の1くらいか。経済成長に伴い、長春でも車を所有する中間層の規模は年々増大しているようで、朝晩の人民大街の渋滞はひどくなる一方だ。渋滞を緩和するため、人民大街の真下では地下鉄の建設が急ピッチで進んでいる。

確かに長春の人びとの多くは、家族や親戚が何らかの形で、日本帝国主義の「満洲」侵略の犠牲になっており、その傷は決して癒えてはいないだろう。だが一方で、長春の多くの人びとは現在、家族・親戚および自分自身が仕事、勉強、遊びなど何らかの形で今の日本と深くかかわり、関心を持っている。中国東北の人びとの日本に対する意識は複雑で、しかも中国社会の変化とともに年々変わりつつあるように思える。

9・18を含むこの季節、中国の各学校では新入生の軍事教練が行われる。私の住む部屋からも、まだあどけない顔をした男子・女子が迷彩服を着せられ、教官の号令で行進させられている様子が毎日みられる。この軍事教練をめぐって、中国では最近いろいろな議論が起きている。先月、湖南省の学校で教練中に軍事教官と生徒とが衝突する事件が起きた。報道によれば、教官らは生徒に殴る蹴るの暴行を働き、四十名の生徒が負傷したという。これをきっかけに、ネット上では生徒たちへの同情とともに、軍事教練制度に対する批判がにわかに巻き起こっている。とくに若者たちの意識は変わりつつあるようだ。もはや、上からの押しつけに黙々と従うだけの時代ではない。

日清戦争120年と現在 [日中関係]

残務を一通り終えて、明日から8月半ばまで一時帰国する予定だ。安倍一味(および外務官僚ら)の解釈改憲クーデターによって戦争国家に変貌してしまった日本国をこの目で見るのは、正直辛いものがある。

最近は帰国するたびに、首都東京の表面のにぎわいと裏腹にこの国が内側から劣化しつつあることを痛感させられてきた。前回1月に帰国したときは、町の本屋の店頭に自画自賛本やヘイト本ばかりが並んでいることにびっくりし、NHKニュースの翼賛報道ぶりにも驚かされた。今回もまた悪い意味での驚きや発見がいろいろあるだろうなと、今からうんざりしている。

先日、中国の同僚との雑談で、日本も中国も政治家や官僚の劣化がひどい、という話になった。国民を戦火に巻き込むことを絶対に阻止する、という気概がどちらの国のリーダーにもなく、互いに隣国に対する大衆の嫌悪感や敵意を煽り立てることをもって、自身の権力を維持するための手段としている。この状態が続くことは両国にとってきわめて危険なことだ、と嘆息し合った。戦争の突発を本気で心配している中国の知識人は少なくない。

今年は日清戦争(中日甲午戦争)の勃発から二度目の還暦を迎える節目の年だ。120年前の7月23日、日本軍はソウルの朝鮮王宮を占拠することで戦争の火ぶたを切り、25日には朝鮮西海岸の豊島(プンド)沖で日清両国艦隊の海戦が始まった。中国では日清戦争のことを第一次中日戦争とも言い(第二次中日戦争は1937~45年の「抗日戦争」を指す)、120年目の今年は関連報道が多い。建前とは異なり、中国においてもマルクス主義の歴史認識が衰弱し、日本帝国主義批判よりもむしろ、「弱国が屈辱を受けたのは仕方がない。だから強くならねばならない」といった見方が強まっているのは、気になるところだ。

杜甫は「国破れて山河あり」と詠じたが、次に戦争が起これば帰るべき山河すら消滅してしまうかもしれない。福島の原発事故はその悲惨なありさまを私たちに暗示している。思考停止の後には、とんでもない悲劇が待っている。

東アジアの悪夢が現実化するとき、まず戦火にさらされる危険が高いのは沖縄だ。安倍一味の解釈改憲クーデターの後、普天間基地の辺野古移設の動きが急ピッチで進んでいる。この暴挙がもしまかり通るなら、沖縄は日米安保体制が続く限り永久に「不沈空母」として利用され続け、隣国との軍事的緊張の矢面に立たされ続けることになる。こんなことを決して許してはならない。

辺野古移設阻止の闘いは正念場に入りつつある。警察は市民に対して海上でも逮捕権を行使する方針だという(「海上で逮捕権行使も 県警、辺野古の移設作業」『琉球新報』7月19日 http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-228740-storytopic-1.html )。私も今回の一時帰国中に、必ず辺野古を訪れて、移設阻止の闘いの列に加わるつもりだ。

「世界記憶遺産」の登録申請をめぐる日中対立 [日中関係]

中国外交部は6月10日、南京大虐殺や従軍慰安婦に関する国内資料を「世界記録遺産」としてユネスコに登録申請したことを発表した。それに対し、日本の菅義偉官房長官は11日午前の記者会見で、「中国がユネスコを政治的に利用し、日中間の過去の一時期における負の遺産をいたずらにプレーアップ(強調)していることは極めて遺憾だ」と批判して、中国政府に抗議し取り下げを求めたことを明らかにした。その際菅長官は、とくに南京大虐殺について「旧日本軍の南京入城後、殺害あるいは略奪行為があったことは否定できないが、具体的な(犠牲者の)数には様々な議論がある」と述べている。
http://www.yomiuri.co.jp/politics/20140611-OYT1T50112.html

今回の悶着の背景には四か月前の出来事がある。今年2月、鹿児島県南九州市は知覧特攻平和会館が収蔵する特攻隊員の遺書や手紙について、世界記憶遺産登録の申請を行っていた(遺産登録の申請は政府だけでなく、非政府機関の団体・個人でも可能である)。それに対して中国外交部は2月10日、この登録申請は日本軍国主義の侵略の歴史を美化し、反ファシズム戦争の成果と戦後の国際秩序に挑戦するもので、ユネスコの趣旨に反しており、必ずや国際社会の強い非難と断固たる反対に遭うだろう、と批判した。
http://collection.sina.com.cn/yjjj/20140211/0930142454.shtml

四か月前の知覧の件は、批判内容の当否はともかく、中国政府が日本の一小自治体の行為を非難したものだ。なお世界記憶遺産の登録をめぐり、日本からは知覧特攻隊員の遺書のほか、「全国水平社」資料(奈良人権文化財団など)、「シベリア抑留者引揚」資料(京都府舞鶴市)、「東寺百合文書」(日本政府)、合わせて四件の申請があったが、ユネスコによる審議は一国につき二件までなので、日本の国内委員会は二件に絞り込まねばならない。

ところで今回の中国政府の南京大虐殺・従軍慰安婦資料の遺産登録申請に対する菅官房長官の批判は、知覧の件とは重みが異なる。日本政府が直接、中国政府の行為を批判し、申請の取り下げまでも要求しているのだ。

だが菅長官の批判する「ユネスコの政治利用」という言葉に、実質上の意味はあるのか?もしこんな批判が通用するなら、現在日本からユネスコに申請のある四件のうち、知覧の特攻隊員の遺書だけでなく、シベリア抑留者引揚資料についても「政治利用」と非難される恐れがあるのではないか?

中国政府は、特攻隊員の遺書の登録申請を「軍国主義の美化」「戦後国際秩序への挑戦」と、自己の歴史観の根本的立場から強烈に批判した。だが菅長官は?「政治利用」という曖昧な言葉を投げるほかは、「旧日本軍の南京入城後、殺害あるいは略奪行為があったことは否定できないが、具体的な(犠牲者の)数には様々な議論がある」などとケチをつけているに過ぎない。ここに、菅長官ら安倍政権の修正主義的歴史観の憫笑すべき弱さがある。

今、安倍政権は集団的自衛権の行使容認のための解釈改憲へ向けて、国民多数から批判を浴びれば浴びるほどますます前のめりに、突き進もうとしている。世界記憶遺産申請をめぐる彼らの中国批判も、どちらかと言えば内向きの理由、つまり右翼勢力から拍手喝采を受けて自派の引き締めを図るためのパフォーマンスのように映る。彼らの極右歴史観自体が内向きの語りに過ぎず、それが何かの拍子に外に飛び出して欧米諸国から批判を受けるたびに戦々兢々と弁明に追われるありさまは、滑稽としか言いようがない。

なお中国側の報道によれば、このたび遺産申請した南京大虐殺および慰安婦関係資料は、中央公文書館、中国第二歴史公文書館、遼寧省公文書館、吉林省公文書館、上海市公文書館、南京市公文書館、南京大虐殺紀念館の七機関の合同によるとのこと。
http://www.chinanews.com/gn/2014/06-11/6270246.shtml

うち吉林省公文書館の資料は、最近当ブログで紹介した関東憲兵隊の史料群が主体になっていると推測される。
長春で新たに公開された関東憲兵隊の史料群
関東憲兵隊の史料群(1)慰安婦関係史料1

上の記事でも書いたように、この史料の公刊は中国の国家的研究プロジェクトの一環として実施されており、史料選択の「政治」性(とくに最近の緊張する日中関係をめぐる)は否定できない。とはいえ、いずれも旧満洲国の首都新京(現・長春)に日本の関東憲兵隊が遺した一次資料で、よくぞ湮滅を免れて今日まで残ったものだと感動すら覚えさせるものだ。これらの資料は、中国側の「政治」的意図を超えて、人類全体が記憶すべき重要な遺産として、末永く保存されるべき価値をもっていることは間違いない。

本来なら、南京大虐殺や従軍慰安婦などの資料は、人類全体が永く悔恨の意をこめて記憶すべき共通の歴史遺産として、国境を越えて多くの市民や研究者が協力し調査・整理・保存に携わることが望ましい。とりわけ日本国は、かつて犯した罪業を真に反省し謝罪するためにも、そのような作業に自ら積極的に協力せねばならなかったはずだ。もしそうしていれば、東アジアの平和の礎を築く大きな力になっていたに違いない。が、日本国支配層の恥知らずな隠蔽と怠慢のために、これらの歴史遺産はむしろ国際的パワーゲームの具に変じてしまった。この悲しむべき事態が、戦後日本国家の怠慢によって生じたことを、日本国民は深く自覚せねばならないと思う。

安倍政権の動向をめぐる『中国社会科学報』のインタヴュー [日中関係]

中国社会科学院の発行する『中国社会科学報』(第592期、2014年5月7日)に、安倍政権および政権批判をめぐる日本政治の動向について、私にインタヴューした記事(「安倍政権の右傾化、日本民衆からの批判に遭う」)が掲載されました。

安倍政权右倾化遭日本民众批判——访东北师范大学教授大田英昭(中国社会科学在线)

以下、インタヴューの全文と日本語訳を転載します。

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  《中国社会科学报》:请问您怎么看待安倍政权?安倍政权与日本右翼势力、右翼意识形态是怎样的关系? (『中国社会科学報』記者:安倍政権をどのように見ていますか?安倍政権と日本の右翼勢力、右翼イデオロギーとはどのような関係にありますか?)

  大田英昭:安倍政权在2012年12月根据日本众议院议员总选举成立。我认为,这一选举结果并未如实反映日本选民的政治意识。以小选举区制为中心的日本众议院议员选举制度,不能够忠实地将国民的舆论反映在各政党的议席分配上。
(安倍政権は2012年12月の衆議院議員総選挙で成立しました。しかしこの選挙結果は、日本の有権者の政治意識をそのまま反映しているわけではないと考えます。小選挙区制が中心の日本の衆議院議員選挙制度では、国民の世論がそのまま各政党の議席配分に反映されないのです。)

  热烈支持安倍政权的是右翼势力。安倍政权为了博得他们的欢心,施行了许多基于右翼意识形态的政策。一是将“爱国心”强加给学生的教育政策,二是以军事大国化为目标的国防政策。
(安倍政権を熱烈に支えているのは右翼勢力です。安倍政権は彼らの歓心を得るために、右翼イデオロギーに基づくさまざまな政策を行っています。愛国心を強制する教育政策がひとつ。もうひとつは軍事大国化を目指す防衛政策です。)

  在历史问题上,安倍也反复根据右翼意识形态发言和行动。1995年,日本政府对曾经的殖民统治和侵略战争发表了表达反省与歉意的“村山谈话”。对此,安倍去年4月做了表示轻视的发言,提出“侵略定义未定论”,并在去年底不顾众多反对意见参拜靖国神社。这些发言与行动也是为了讨好右翼势力。
(歴史認識問題において、安倍首相は右翼的イデオロギーに基づく発言と行動を繰り返しています。1995年、第二次大戦前の日本の植民地支配や侵略戦争に対して日本政府は公式に反省とおわびを示した「村山談話」を発表しました。ところが安倍首相は昨年4月にこれを軽視する発言をし、「侵略の定義は定まっていない」などと述べています 。さらに彼は、昨年末に多くの反対を押し切って靖国神社を参拝しました。これらの発言と行動は、自分の支持基盤である右翼勢力を喜ばせるためのものなのです。)

  日本右翼意识形态的根据是赞美近代日本的侵略战争和专制天皇制的历史修正主义,企图否定战后的国际、国内秩序。基于这一思想的安倍政权的极右外交政策,使东亚国际秩序陷于不安定,是非常危险的,理所当然受到亚洲各国的批判。安倍政权在经济上、军事上采取对美依附政策的同时,又不得不顾虑对以美国为中心的战后体制抱有敌意的右翼势力。然而,同时讨好美国和右翼是困难的。安倍政权没有办法解决这一矛盾。
(日本の右翼イデオロギーは、近代日本の侵略戦争や絶対天皇制を賛美する歴史修正主義に基づいて、戦後の国際的・国内的秩序を否定しようとするものです。こうした思想に基づく安倍政権の極右的な外交政策は、東アジアの国際関係を不安定にする、非常に危険なものです。それが、アジア各国だけでなくアメリカからも非難されるのは当然でしょう。ところで安倍政権は、経済的・軍事的にアメリカへの従属政策を採る一方、東京裁判を批判しアメリカ中心の戦後体制に敵意を持つ右翼勢力にも配慮せねばなりません。しかし、アメリカと右翼と両方を同時に喜ばせることは困難です。そして安倍政権は、この矛盾を解決する手段を持っていないのです。)

  《中国社会科学报》:根据您的观察,日本社会各阶层怎么看待安倍政权,进行了哪些批判? (『中国社会科学報』記者:日本社会の各層は安倍政権をどのように見、またどのような批判を行っていますか?)

  大田英昭:安倍政权的右翼思想脱离了战后日本保守势力的常识。安倍政权与中国和韩国为敌、让美国不快的极右外交政策和蹂躏立宪政治的强权政策,引发了日本国内其他政党甚至自民党内部的不满。安倍政权的极右意识形态、无视立宪政治的强权手法,引起了日本各阶层的强烈批判。
(安倍政権の極右思想は、戦後日本の保守勢力の常識からも逸脱するものです。中国や韓国と敵対しアメリカをも不快にさせる安倍政権の極右的外交政策や、立憲政治を蹂躙する強権政策は、自民党内部の不満をも引き起こしています。安倍政権の極右イデオロギーや、立憲政治を無視した強権的手法は、日本の各層の強い批判を引き起こしているのです。)

  安倍政权企图删除军事大国化的重要障碍——日本宪法第九条的有关条款。然而,根据舆论调查,大多数日本国民反对修改宪法第九条。在目前情况下,安倍政权无法修改宪法,于是便企图通过修改宪法第九条的解释,使得行使现在不被承认的集体自卫权成为可能。而且,安倍政权明确了不通过国会只由内阁会议决定来变更这一宪法解释的方针。
(安倍政権は、軍事大国化の大きな障害である日本国憲法第9条の戦力不保持条項や交戦権否認条項を削除することを目指しています。しかし、世論調査によれば日本国民の大多数が憲法9条の改正に反対しており 、安倍政権が現在改憲できる状況ではありません。そこで安倍政権は、憲法9条の解釈を変えることで、現在認められていない集団的自衛権の行使を可能にすることを、企んでいるのです。しかも政権は、この憲法解釈変更を、国会を通さずに内閣の閣議決定だけで行う方針をも明らかにしました。)

  然而,对于安倍政权这一破坏立宪政治的强权手法,自民党内部也有不少批判。根据舆论调查,对于安倍推动的通过更改宪法第九条的解释来允许行使集体自卫权,赞成者为26%,反对者为51%,对于不通过国会由内阁会议决定更改宪法解释的行为,反对者高达83%。
(しかし、立憲政治を破壊する安倍政権のこうした強権的手法に対しては、自民党内からさえも批判が少なくありません。(ANNの)世論調査によれば、安倍首相が進める憲法9条の解釈変更による集団的自衛権行使容認に対して、賛成は26%、反対は51%でした。さらに国会を通さず閣議決定で憲法解釈変更を行うことに反対する人は83%にのぼりました。)

  《中国社会科学报》:您认为,日本政治现状是否存在变化的可能?如果可能的话,实现这种变化的力量在什么地方? (『中国社会科学報』記者:日本政治の現状は変化の可能性があるとお考えですか?もし可能性があるとすれば、変化を実現する力はどこにあるとお考えでしょうか?)

  大田英昭:安倍政权以国会绝对多数为背景,表面上十分安定,但实际上基础脆弱。目前,安倍政权的支持率不足半数,但这是驱使媒体鼓动对“安倍经济学”的期待才勉强维系的状态。等到“安倍经济学”的破绽显而易见时,安倍政权恐将立刻陷入危机。然而这个时候,安倍政权可能将内政的失败转化为与外国关系的紧张,这是非常危险的。根据我的观察,众多日本民众正在展开尖锐批判安倍政权、拥护和平与民主的运动。
(安倍政権は、国会の絶対多数を背景に、表面上は安定しているように見えます。が、その基盤は実は脆弱です。安倍政権はメディアを駆使して「アベノミクス」への期待を煽ることで、かろうじて過半数足らずの支持を繋ぎ止めている状態なのです。「アベノミクス」の破綻が明らかになったとき、安倍政権は直ちに危機に陥るでしょう。しかしそのとき、安倍右翼政権は内政の失敗を外国との緊張に転化するかもしれません。これは非常に危険なことです。そこで日本の多くの市民は現在、安倍政権を鋭く批判し、平和と民主主義を擁護する運動を行っているのです。)

  日本的和平、民主运动,在日本共产党和社会民主党以外,还受到众多“无党派”民众的支持,并得到许多工会组织的参与。对安倍政权所推行的强权政策,日本民众的抵抗也日益强烈。针对去年12月安倍政权强行推动通过的《特定秘密保护法》,东京、大阪、名古屋、京都等全国十几个大城市都举行了大规模的反对集会。去年12月6日在东京举行的抗议集会就约有1.5万人参加。《特定秘密保护法》废止运动现也在日本各地不时持续着。
(日本の民主・平和運動は、日本共産党や社民党のほか、非常に多数の「無党派」市民によって支えられ 、多くの労働組合の参加を得ています。安倍政権が進める強権政策に対して、市民・労働者の抵抗が強まっています。昨年12月に安倍政権が強行成立させた「特定秘密保護法」に対して、東京・大阪・名古屋・京都など全国の十数の大都市で大規模な反対集会が行われました。昨年12月6日に東京で開かれた抗議集会には一万五千名が参加しました。秘密保護法廃止運動は現在も全国で定期的に続けられています。)

  《中国社会科学报》:基于您的学术观察,请您谈谈对于日本当前政治现状和发展趋势的整体判断。 (学術的観察に基づき、日本における現在の政治情勢とその発展の動向について、全体的な判断をお聞かせください。)

  大田英昭:目前,处于安倍政权下的日本政治特征,与自民党的主流不同,以右翼的支持为背景的势力掌握着权力。针对推行极右路线的安倍政权,以前的保守派中也出现了批判声音。日本的和平、民主势力必须同这些有良知的保守派联合起来,构筑包围安倍政权的统一战线,从而压倒右翼势力。从舆论调查的结果来看,这是完全可能的。
(目下、安倍政権下の日本政治の特徴は、従来の自民党主流とは異なり、右翼の支持を背景とする勢力が権力を握っていることにあります。極右路線を進む安倍政権に対して、旧来の保守派の中からも批判の声が現れています。日本の平和・民主勢力は、こうした良識的な保守層とも連帯しながら、安倍政権を包囲する統一戦線を築き、右翼勢力を圧倒せねばなりません。世論調査の結果を見れば、その可能性は十分にあります。)

  在任何国家,绝大多数民众都憎恶战争、追求和平。对于东亚的持续发展而言,和平是最低限度的必要条件。追求和平的东亚各国人民,必将能够跨越国界联合起来,压倒好战势力。我对此深信不疑。
(どこの国においても、圧倒的多数の民衆は戦争を憎み平和を求めています。東アジアの持続的発展にとって、平和は最低限の必要条件です。平和を求める東アジア各国の民衆は、必ずや国境を越えて連帯し、好戦的勢力を圧倒してゆくに違いないと、私は信じています。)

中国における二つの靖国報道 [日中関係]

新藤総務相が12日午前に靖国神社を参拝したというニュースは、直ちに中国でも報じられています。新藤氏の靖国参拝について中国中央テレビの夜のニュースは、靖国の春季例大祭がオバマ大統領来日と重なり、日米首脳会談への影響を避けるために前もって参拝したという論評を伝えるのとともに、新藤氏自身がこうした見方を否定したこと、春季例大祭中に再び参拝する可能性があることをも指摘しています。そして、今回の参拝は安倍内閣の歴史問題に対する誤った態度を示し、日本政府に対して厳重な抗議を行ったという中国外交部のスポークスマンの発言を紹介しました。
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さらに注目したいのは、同じ番組の中で、日本市民540人が、昨年末の安倍首相の靖国参拝について、憲法の保障する平和的生存権を侵害したとして、一人当たり一万円(約600人民元)の賠償と、首相の靖国参拝停止を求めて大阪地裁に提訴したというニュースが報道されていることです。訴状の内容として、安倍首相の靖国参拝が東アジアの外交的緊張を高め、人びとの生命や自由を危険にさらしているという日本の民衆の主張を取り上げ、さらに東京でも提訴が予定されていることも伝えています。
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安倍政権の一つ一つの危うい動きが、ただちに中国のメディアで報道されるのと同時に、安倍政権に対抗して平和を求める民衆の声もまた伝えられています。安倍政権の極右イデオロギーが日本社会を決して代表していないことを、行動をもって示す日本市民の動きが、東アジアの平和を創り出してゆくうえで重要な役割を担っていることは間違いありません。
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日本现代政治与市民运动(日本の現代政治と市民運動)――中国・東北師範大学での講演要旨 [日中関係]

3月7日の午前、私の勤務先の中国・東北師範大学で開かれた「東アジア歴史学団体学術交流会」の席上、「日本の現代政治と市民運動」と題して30分ほどの小さな講演をしました。

中国のメディアでは安倍政権の右翼的な内政・外交政策の危険性についてよく報道されますが、政治の右傾化に対して多くの人びとが必死に抵抗している事実については、それほど知られていません。そこで今回の講演では、安倍政権が見かけの盤石さとはちがって実は隘路に迷い込みつつあることを説明し、安倍政権を包囲する民衆の共同戦線を築くことができるかどうかに日本の未来がかかっていること、それは東アジアの平和にとって日本国民に課せられた義務であることを断言しました。そのうえで、アジア各国の好戦的勢力に対して、各国の民衆が国境を越えて連帯せねばならないことを訴えました。

以下は講演要旨:

1、序言(はじめに)

现在,中国同日本的政治关系处于二战后的最坏状态。2012年5月以后甚至未能再举行日中首脑会谈。随着政治关系的恶化,日中经济关系也迅速降温。2013年日中贸易与前年相比减少了百分之6.5。日本政府不仅恶化了同中国,而且也恶化了同韩国的关系。今年距日清战争已有120年,目前东亚的国际秩序却仍然非常不安定。其责任的一端,显然在于日本安倍政权的右倾化。日本政治现在处于什么样的状态?它有变化的可能么?如果可能的话,实现这种变化的力量又在日本社会的什么地方?就这些问题,我谈一谈我的看法。

(現在、中国と日本の政治上の関係は第二次大戦後最悪の状態だ。2012年5月を最後に日中首脳の会談すら行うことができないままである。政治的関係の悪化とともに、日中間の経済上の関係も冷え込んでいる。2013年の日中貿易は前年比6.5%減少した。日本政府は中国だけでなく韓国との関係も悪化させている。今年は日清戦争から120年目の節目の年だが、東アジアの国際秩序は今、非常に不安定化している。その責任の一端が、日本の安倍晋三政権の右傾化にあることは明らかだ。日本政治は現在どのような状態なのか。その変化の可能性はあるのか。可能性があるとすればそれをもたらす力は日本社会のどこにあるのか。こうした問題について、私の考えを述べる。)

2、日本政治的现在(日本政治の現在)

安倍政权在2012年12月根据众议院议员总选举成立。自民党在这次选举中,凭借获得众议院总议席数480席中的294席的压倒性胜利,得到了绝对安定多数。然而自民党在比例代表区的得票率不过百分之27.6。以小选举区制为中心的日本众议院议员选举制度,不能够忠实的将国民的舆论反映在各政党的议席分配上。民众对安倍政权的支持并非表面看上去那样坚固。

(安倍政権は2012年12月の衆議院議員総選挙によって成立した。自民党はこの選挙で、衆議院の総議席数480のうち294議席を獲得する圧勝で、絶対安定多数を得た。しかし自民党の比例代表区での得票率は27.6%に過ぎない。小選挙区制が中心の日本の衆議院議員選挙制度では、国民の世論がそのまま各政党の議席配分に反映されるわけではない。安倍政権に対する民衆の支持は外見ほど強固なものではない。)

自民党曾经的支持基本盘是农民和城市个体户,但这些阶层1990年代以来因为产业结构的变化而衰落。自民党尽管从财界、大企业获得了强有力的支援,但仅仅如此还不能赢得选举。于是安倍自民党积极向以下两个阶层寻求支持。其一是对政治没有关心的浮动的大众,其二是右翼势力。

(自民党のかつての支持基盤は、農村と都市自営業者にあったが、これらの階層は1990年代以降の産業構造の変化によって衰弱した。自民党は、財界・大企業から強力な支援を得ているものの、それだけでは選挙に勝てない。そこで安倍自民党は、次の二つの階層に向けて強く働きかけている。その第一は政治に無関心な浮動的大衆であり、第二は右翼勢力だ。)

获得浮动的大众的支持的手段有两个。一是抬高其对于由经济增长所带来的收入增加的期待。这也就是被称为“安倍经济学”的经济政策。政府极力主张,只要安倍经济学能够带来景气回复,民众的生活水平就会提高。然而,“安倍经济学”的本质是对财界、大企业的优待保护。事实上,虽然一年来大企业的利润增大了,但民众并没有从中得到好处。根据1月25、26日共同社的舆论调查,实际感受到安倍经济学带来的景气好转的人占百分之24.5,没有实际感受到的人占百分之73,认为能够实现工资上涨的人占百分之27.8,认为不能实现的占百分之66.5。今年4月消费税将上涨百分之8,由此景气好转将进一步放缓,对“安倍经济学”的期待恐怕将会幻灭。
 
(第一の浮動的大衆の支持を獲得する手段は二つある。一つは、経済成長によって所得増の期待を高めることである。「アベノミクス」と呼ばれる経済政策がそれだ。「アベノミクス」によって景気が回復すれば民衆の生活も向上するはずだと、政府は力説する。しかし、「アベノミクス」の本質は財界・大企業を優遇し保護することにある。事実、この一年で大企業の利益は増大したが、その恩恵は民衆に分配されていない。1月25・26日の共同通信社の世論調査によれば、「アベノミクス」で景気が良くなったと実感している人は24.5%、実感していない人は73.0%であり、賃金引上げが実現すると考える人は27.8%、実現しないと考える人は66.5%だった。今年4月に消費税率が8%に引き上げられるが、それによって景気回復はさらに減速し、「アベノミクス」に対する期待は幻滅へと変わるだろう。)

获得浮动的大众支持的另一手段,是利用媒体的宣传。安倍政权将首相的友人送进公共广播NHK的干部中,宣传“安倍经济学”等政策的成功。此外,通过狂热的报道奥林匹克等体育赛事,企图将人们的注意力从政治上转移开,以平息他们对生活的不满。进而煽动中国的军事威胁,将人们对内政的不满向外转化。

(浮動的大衆の支持を獲得するもう一つの手段は、メディアを利用した宣伝だ。安倍政権は、公共放送のNHKの幹部に首相の友人たちを送り込み、「アベノミクス」などの政策が成功していると宣伝している。また、オリンピックなどスポーツを熱狂的に報道することで、政治に対する人びとの関心を逸らし、生活の不満を鎮静することに努めている。さらに、中国の軍事的な脅威を煽ることで、内政の不満を外に転化している。)

热烈支持安倍政权的是右翼势力。安倍政权为了博得他们的欢心,施行了许多基于右翼意识形态的政策。如将爱国心强加给学生的教育政策,以军事大国化为目标的国防政策等。在历史认识上,安倍也反复根据右翼意识形态发言和行动。他在去年年底不顾众多反对意见参拜靖国神社,强化与中国对决的姿态,也是为了讨好自己的支持基本盘右翼势力。

(安倍政権を熱烈に支えているのは右翼勢力だ。安倍政権は彼らの歓心を得るために、右翼イデオロギーに基づくさまざまな政策を行っている。愛国心を強制する教育政策や、軍事大国化を目指す防衛政策などである。歴史認識においても、安倍は右翼イデオロギーに基づく発言と行動を繰り返している。彼が昨年末に多くの反対を押し切って靖国神社を参拝したり、中国と対決する姿勢を強めたりするのは、自分の支持基盤である右翼勢力を喜ばせるためである。)

日本的右翼意识形态,根据赞美近代日本的侵略战争和专制天皇制的历史修正主义,企图否定战后的国际、国内秩序。基于这样的思想的安倍政权的极右外交政策,使东亚的国际秩序陷于不安定,是非常危险的。它理所当然不仅受到亚洲各国,而且也受到美国的批评。这样,安倍政权面临着矛盾。也就是说,安倍政权在经济上、军事上采取对美依附政策的同时,又不得不顾虑批判东京审判,对以美国为中心的战后体制抱有敌意的右翼势力。然而,同时讨好美国和右翼双方是困难的。美国对安倍首相参拜靖国神社表示“失望”,暴露了安倍政权所面临的矛盾。而且,安倍政权没有办法解决这一矛盾。

(日本の右翼イデオロギーは、近代日本の侵略戦争や支配体制を肯定・賛美する歴史修正主義に基づいて、戦後の国際的・国内的秩序を否定しようとする。こうした思想に基づく安倍政権の極右的な外交政策は、東アジアの国際関係を不安定にする、非常に危険なものだ。それが、アジア各国だけでなくアメリカからも非難されるのは当然だ。ここで安倍政権は矛盾に直面する。すなわち、安倍政権は経済的・軍事的にアメリカへの従属政策を採る一方、東京裁判を批判し戦後の国際・国内システムに敵意を持つ右翼勢力にも配慮せねばならない。だが、アメリカと右翼と両方を同時に喜ばせることは困難だ。安倍首相の靖国参拝に対してアメリカが表明した「失望」に、安倍政権の直面する矛盾が現れている。そして安倍政権はこの矛盾を解決する手段を持っていない。)

安倍政权的右翼思想,也脱离了战后日本保守势力的常识。对于安倍政权与中国和韩国为敌、让美国不快的极右外交政策,和蹂躏立宪政治的法西斯强权政策,不用说与自民党组成联合政权的公明党,从重视与中国关系的财界和自民党内部也爆发了不满的声音。

(安倍政権の右翼思想は、戦後日本の保守勢力の常識からも逸脱するものである。中国や韓国と敵対しアメリカをも不快にさせる安倍政権の極右的外交政策や、立憲政治を蹂躙するファシズム的な強権政策に対しては、連立政権を組む公明党からはもちろん、中国との友好を重視する財界や自民党内部からも不満の声が出ている。)

3、 改变日本现代政治的市民运动的可能性(日本の現代政治を変える市民運動の可能性)

安倍政权以国会绝对多数为背景,看起来十分安定,但实际上基础脆弱。虽然安倍政权的支持率现在超过百分之50,但这是驱使媒体鼓动对“安倍经济学”的期待,才勉强维系过半数支持的状态。如果经济泡沫破灭,安倍政权恐怕将立刻陷入危机。然而这个时候,安倍政权可能将内政的失败转化为与外国关系的紧张,这是非常危险的。于是众多日本市民正日夜展开着尖锐批判安倍政权,拥护和平与民主主义的运动。

(安倍政権は、国会の絶対多数を背景に安定しているように見えるが、その基盤は実は脆弱である。安倍政権の支持率は現在50%超だが、メディアを駆使して「アベノミクス」への期待を煽ることで、かろうじて過半数の支持を繋ぎ止めている状態だ。経済のバブルが破裂すれば、安倍政権は直ちに危機に陥るだろう。だがそのとき、安倍政権は内政の失敗を外国との緊張に転化するかもしれず、非常に危険だ。ここにおいて、日本の多くの市民は、安倍政権を鋭く批判し、平和と民主主義を擁護する運動を日夜行っている。)

日本的民主、和平运动,在日本共产党和社会民主党以外,还受到众多“无党派”市民的支持,得到许多工会组织的参与。现在日本最大的市民运动,是“反核电”运动。在财界的支持之下企图重新启动核电站的安倍政权,受到了众多市民的反对。根据1月的舆论调查,百分之60以上的国民反对重新启动核电站。去年10月在东京市中心进行的反核电示威,有两万人参加。现在,反核电示威仍每周五都在首相官邸前举行。

(日本の民主・平和運動は、日本共産党や社会民主党のほか、非常に多数の「無党派」市民によって支えられ、多くの労働組合の参加を得ている。現在の日本で最も大きな市民運動は、「反原発」運動である。財界の支持によって原発を再稼働させようとする安倍政権に対し、多くの市民が反対している。1月の世論調査によれば、国民の60%以上が原発再稼働に反対だ。昨年10月に東京の中心部で行われた反原発デモには二万人が参加した。反原発デモは現在も毎週金曜日に首相官邸前で行われている。)

对安倍政权所推进的强权政策,市民、劳动者的抵抗也日益强烈。针对去年12月安倍政权强行成立的《秘密保护法》,在东京、大阪、名古屋、京都等全国十几个大都市都举行了大规模的反对集会。秘密保护法废止运动现在也在全国各地不时继续着。针对日美两国政府企图加强冲绳美军基地的政策,冲绳和日本本土的市民联合起来,展开反对运动,阻止着基地的建设。拥护和平宪法的活动也在日本全国广泛展开。自民党占据国会的绝对多数仍未能修改和平宪法,是因为在日本和平、民主运动仍然健在。

(安倍政権が進める強権政策に対しても、市民・労働者の抵抗が強まっている。昨年12月に安倍政権が強行成立させた「秘密保護法」に対して、東京・大阪・名古屋・京都など全国の十数の大都市で大規模な反対集会が行われた。秘密保護法廃止運動は現在も全国で定期的に続けられている。沖縄のアメリカ軍基地を増強しようとする日米両政府の政策に対しても、沖縄と日本本土の市民が連帯して反対運動を展開し、基地建設を阻止している。平和憲法を擁護する運動も日本全国に広がっている。自民党が未だに平和憲法を改正できないのは、強力な平和・民主運動が日本に健在だからだ。)

这样拥护和平与民主主义的运动,有众多无党派阶层参加。但另一方面,无党派阶层中也有一部分受到极右宣传的影响。特别是在年轻的一代中,有加入左派、民主势力一方的,也有加入极右势力一方的,出现了两极化的倾向。

(こうした平和と民主主義を擁護する運動には、多くの無党派層が参加している。だが他方で、無党派層の一部には極右の宣伝に流されてゆく者もいる。特に若い世代は、左派・民主勢力の側に行く者と、極右の側に行く者と、二極化する傾向がある。)
如前所述,对安倍右翼政权,从以前的保守派中也出现了批判。日本的和平、民主势力必须同这些有良知的保守派联合起来,构筑包围安倍政权的统一战线,从而压倒右翼势力。从舆论调查的结果来看,这是完全可能的。

(前にも言ったように、安倍右翼政権に対しては、旧来の保守派の中からも批判が現れている。日本の平和・民主勢力は、こうした良識的な保守層とも連帯しながら、安倍政権を包囲する共同戦線を築き、右翼勢力を圧倒せねばならない。世論調査の結果を見れば、その可能性は十分にある。)

在任何国家都有企图进行战争的势力。但同样在任何国家,绝大多数的民众都憎恶战争追求和平。对于东亚的持续发展而言,和平是最低限度的必要条件。追求和平的东亚各国人民,必将有一天能够跨越国界联合起来,压倒好战势力,我对此深信不疑。

(どこの国にも戦争をしたがる勢力がある。だがどこの国でも、圧倒的多数の民衆は戦争を憎み平和を求めている。東アジアの持続的発展にとって、平和は最低限の必要条件だ。平和を求める各国の民衆は、いつの日か必ず国境を越えて連帯し、好戦的勢力を圧倒してゆくに違いないと、私は信じている。)

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「打鬼子」と「打貪腐」――中国の二つの官製ゲーム [日中関係]

2月27日、『人民日報』の微博(ウェイボ、中国版SNS)が新しいネットゲームを発表しました。その名も「打鬼子」(鬼子を撃て。鬼子は日本侵略者の意味)。その内容は、靖国神社に祭られている十四人のA級戦犯から一人を選び、その戦犯の似顔絵が描かれた的にマウスで照準を合わせて撃つ、というものです。
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このゲームに対しては中国の多くのネットユーザーから冷淡な反応が寄せられています。私もやってみましたが、実在の人物の顔を狙うというのはさすがに抵抗感があります。

実は先月、同じく『人民日報』のSNSは「打貪腐」(腐敗官僚を撃て)というゲームを出し、話題になりました。収賄・公金横領・職権乱用・淫行という四タイプの官僚が次々と窓から現れ、それをマウスで狙って撃つ、という内容です。昨年から続く党・政府の反腐敗キャンペーンの一環として作られたものでしょう。
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実際、特権階級の腐敗に対する民衆の怒りのマグマは、すさまじいものがあります。官・財界の大物が汚職で逮捕されるたびに大きな拍手が沸き起こりますが、しかしそうした表面に現れる個々の腐敗の背後に、政治・社会の構造的な問題があることは、多くの人が知っています。

日中間の歴史認識をめぐる懸案として、A級戦犯の靖国合祀問題や領土問題に焦点があてられていますが、そうした現象の背後には、日本の戦争責任がいまだ清算されておらず、その結果として東アジアの戦後秩序がいまだ確立されていないという問題があります。中国の多くの民衆は、日本軍が過去に犯した戦争犯罪(を体現するA級戦犯)に対する憎しみからだけではなく、東アジアの新しい平和的秩序をつくってゆく大前提として、過去の侵略戦争に対する明確な謝罪と清算を日本に求めているのだと、私は思います。

反腐敗にせよ、A級戦犯問題にせよ、官製メディアの取り上げ方と一般民衆の見方との間には、どこか微妙なずれがあるように見えます。二つの官製ゲームに対する人びとの意外に冷めた反応が、そうしたずれを表しているように思えます。

東アジア各国の政府間(あるいは支配層間)の対立と妥協の演出に惑わされてはならないでしょう。民衆同士がいかにしてお互いを理解し、手を取り合って平和的秩序を創り出してゆくか。この困難な道を乗り越えることに、東アジアの平和な未来は懸っていると、私は信じます。

安倍首相の靖国参拝と中国メディア [日中関係]

ちょうど今、中国のテレビニュースのトップで、安倍晋三首相の靖国参拝の報道が流れている。

「まさか」と「やはり」。二つの言葉が口に出る。

国家安全保障会議(NSC)設置、秘密保護法成立、新防衛大綱・中期防決定、武器輸出三原則の踏み越え・・・今月に入って安倍政権が立て続けに行った強権的政策の一つひとつが、中国でも報道されている。そのたび繰り返し、安倍政権の好戦的な性格とその危険性に対して注意が喚起されている。

そして極め付けが、今回の靖国参拝だ。自民党の閣僚さえ、参拝を強行しようとする安倍に慎重を求めたというが、当然だ。東アジアの海はいっそう波風が荒立つだろう。

安倍首相の靖国参拝には、日本の右翼勢力だけでなく、中国の軍部の強硬派も小躍りしているにちがいない。日本の軍国主義化が証明された、我々もすべからくこれに対抗し相応の措置を取らねばない、と。

東アジアの政治指導者たちの弄ぶパワーゲームは、ますます危険さを増している。各国とも非生産的な軍事に血税を注ぎ込む一方、民生はないがしろにされている。支配層の火遊びの犠牲になるのは結局、民衆だ。
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