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「アジアにおけるマルクス主義の伝播」シンポジウム [東アジア・近代史]

11月17・18日、上海の華東師範大学で開催された「アジアにおけるマルクス主義の伝播」をめぐるシンポジウムに参加した。このテーマで、中国大陸・台湾・朝鮮半島・日本の各地域から50人を超える研究者・作家・芸術家たちが一堂に会したこと自体、意義のあることだろうと思う。

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会議の中で考えたことをいくつか、備忘録として記しておく。

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1.アジアのマルクス主義は、ロシア革命後の国際共産主義運動との連関で発展し、植民地解放・反帝国主義の闘争と結合したことではじめて実践的に大きな意味をもった。

2.「民族」解放と「階級」闘争とをどのように関係づけるか(さらに「民族」「階級」の概念自体をどのように捉えるか)をめぐっては、原則上・戦略上にさまざまな考え方があったし、今もある。各地の運動がかつてコミンテルンの指導の混乱に振り回されたのは周知のこととして、現在でも「民族」「階級」をめぐり、理論上・運動上の深刻な分裂がある(特に台湾、韓国)。

3.アジアの中でも、日本の社会(主義)運動は三つの点で特異な例外をなしている。①レーニン主義が主流になる以前の社会民主主義・無政府主義運動の経験をもち、それが長く尾を引いていること。②帝国主義本国における運動であること。③天皇制との対決を強いられていること。それらのことは、戦前から戦後を通して、日本の社会運動にナショナリズムや帝国主義問題をめぐって特殊な陰影を与えてきたし、今も与えている(戦後責任問題など)。

4.上と関連して、日本共産党の党史などに、戦前の台湾共産党(日本共産党台湾民族支部)や、在日朝鮮人の役割、旧満洲での運動(日本共産党満洲地方事務局)等のことがなおざりに(というよりも無視)されてきたのは、見過ごしてよい問題ではないだろう。

5.マルクス・レーニン主義が、ある国家体制の根幹をなす指導的思想となり、その正統性が国家権力と結合するとき、マルクスの予見しなかったさまざまなことが起きたし、いまも起きている。

6.大陸の執政党に近い台湾の「統一左派」の紹介と顕彰は、会議の中心テーマの一つだった。今回はじめて、彼らの歴史とその論理の一端について知る機会に恵まれた(とくに2.28や「保釣運動」をめぐる件、米日帝国主義との闘争など)。ただし「民族」「階級」問題をめぐる台湾の左派における運動・思想上の激烈な対立について、事情に疎い部外者がにわかに立ち入るのは憚られる。
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政治的に敏感なテーマを含むシンポの議論には暗黙の制約があり、自由闊達な発言にはばかりがあったのは仕方がない。むしろ会議の後、いろいろな人と出会い、語り合えたことこそ、実に有益だった。

長春だより

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