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中国の老百姓と「安保法案」 [日中関係]

昨日10月1日は、中華人民共和国の成立から66年目の国慶節。中国は一週間の休暇に入り、今日はその二日目だ。
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長春は昨日あたりからめっきり肌寒くなり、今朝の気温は4度。街を行き交う人もコート姿が多くなった。国家の最も重要な祝日ということで、商店にはちらほら五星紅旗が掲げられている。ある日本式ラーメン店など、9月はじめの「抗日戦争勝利記念日」からずっと掲げっぱなしだ。だが今日は強風のためか旗を降ろしている店が多い。

タクシーに乗り、行き先を伝える。発音のせいで、「どこの国の人?」と運転手に聞かれることがたまにある。今日もそうだった。

今からちょうど三年前、2012年の秋に日中間の領土問題が再燃したとき、多くのタクシーが五星紅旗をはためかせて走っていた。その頃、当面タクシーには乗らないほうがいいよ、と知人に忠告されたこともある。件の日本式ラーメン店など、ひらがなの看板や暖簾を隠して営業していた。そうした状態はやがてひと月ほどで収まり、私もタクシーにも乗るようになったが、運転手に「どこの国の人?」と聞かれると、きまり悪げに「マレーシア」とか「タイ」などと言葉を濁したものだ。年が改まった頃から、正直に「日本から」と答えるようにしているが、以来三年間、それが理由で不愉快な思いをしたことは一度もない。友好的にいろいろ話しかけられることがほとんどだ

とはいえ、「どこの国の人?」と問われると、今でも私はやはり緊張する。内心どこか身構える自分を感じながら、おずおずと「日本から」と答える。

運転手「日本の人か。最近、安倍政権のことが話題になっているね。戦争法案だったっけ。多くの人が反対したとか。」

私「そうそう。先月、十数万の人が東京の国会を取り囲んで、戦争法案に反対するデモをしたよ。七割くらいの人がこの法案に反対していますよ。」

運「(うなずきながら)そうか。どこの国でも、老百姓〔庶民〕は戦争なんか起きてもいいことは何もないからね。でも、戦争法はもう通っちゃったんでしょう?」

私「本当に残念です。」

運「とにかく戦争は嫌だね。まあ老百姓は仲良くやっていきましょう。(運賃を受け取りながら)お気をつけて。」

私「ありがとう。」

短い会話だったが、中国の一般庶民の人びとと話して感じるのは、自分たち「老百姓」を権力者からはっきり区別して考えることだ。それは、政治権力から疎外されていることへの諦念というより、下積みで働く者としての、どこか醒めた、それでいて粘り強い心の芯のようなもので、むしろ政治的権利の面で恵まれているはずの日本の多くの人たちが失いかけているものではないかと思う。

「安保法」成立による日本国の武力強化など、中国に住む邦人の「安全」を少しも保障しないどころか、むしろ危険の淵に追いやるものだ。それに比べて、戦争法案に反対する日本の数百万の人びとの大きな動きは、中国のテレビで繰り返し詳しく報道され、中国「老百姓」の日本民衆に対する理解に肯定的な影響をおよぼしたのは確かだ。こうしたことの積み重ねが、結局は私たちの本当の意味での「安全」につながることを、実感する。その意味でも、国会前および各地で行動を起こした方々に、中国に住む者として私は心から感謝したい。
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長春だより

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