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九・一八と現代中国 [日中関係]

9月18日。八十三年前のこの日、満洲事変の発端となった柳条湖事件――日本の関東軍が奉天(現・瀋陽)郊外の鉄道線路を自ら爆破し、中国軍の仕業と嘘をついて攻撃を仕掛け、数か月で満洲(中国東北)全土を武力制圧する口実とした自作自演の陰謀事件――が起きた。「九・一八」の日付の意味するところを知らない中国人はほとんどいないだろう。足を踏んだ側が忘れていようと、踏まれた側はその痛みを容易に忘れることはできない。

瀋陽では今年の九・一八を記念する行事の規模が過去最大になるらしい。中国東北部在住の日本人宛てに、在瀋陽の日本国総領事館から次のような注意喚起のメールがきた。「○外出する際には周囲の状況に注意を払い、広場など大勢の人が集まっているような場所には近づかない。○現地の人と接する際には言動に注意する。○日本人同士で集団となり日本語で騒ぐ等、過度に目立つ行為は慎む。○外務省の危険情報・関連情報等をこまめにチェックする」、等々。

柳条湖事件から八十三年経った現在もなお、過去に日本政府と軍が中国人民に対して犯した罪ゆえに、在中日本人が緊張を強いられるという現実。その責任の一端が、過去の過ちについて真摯に反省しない日本政府、および健忘症の国民多数の態度にあることは、確かだろう。

そして九・一八当日。私の住む部屋は、長春一の目抜き通り「人民大街」(もと「満洲国」の国都「新京」の南北を貫く大動脈「大同大街」として80年前に建設された)に面するアパートにある。午前9時18分、長春市内の防空警報のサイレンが鳴り響くのと同時に、走行中の車がクラクションを鳴らすのはいわば年中行事だ。人民大街のあちこちでもクラクションが鳴らされている。だが、膨大な車が通行しているわりに聞こえてくるのは散発的で、待ち構えていた私にとってはちょっと拍子抜けだ。

長春の経済を支える主要産業は自動車生産で、中国有数の規模を誇っている。トヨタやマツダ系の合弁工場も市内のあちこちにあり、市の経済にとって不可欠の存在だ。市内を走る車のうち、日系メーカーの車は目算で3分の1くらいか。経済成長に伴い、長春でも車を所有する中間層の規模は年々増大しているようで、朝晩の人民大街の渋滞はひどくなる一方だ。渋滞を緩和するため、人民大街の真下では地下鉄の建設が急ピッチで進んでいる。

確かに長春の人びとの多くは、家族や親戚が何らかの形で、日本帝国主義の「満洲」侵略の犠牲になっており、その傷は決して癒えてはいないだろう。だが一方で、長春の多くの人びとは現在、家族・親戚および自分自身が仕事、勉強、遊びなど何らかの形で今の日本と深くかかわり、関心を持っている。中国東北の人びとの日本に対する意識は複雑で、しかも中国社会の変化とともに年々変わりつつあるように思える。

9・18を含むこの季節、中国の各学校では新入生の軍事教練が行われる。私の住む部屋からも、まだあどけない顔をした男子・女子が迷彩服を着せられ、教官の号令で行進させられている様子が毎日みられる。この軍事教練をめぐって、中国では最近いろいろな議論が起きている。先月、湖南省の学校で教練中に軍事教官と生徒とが衝突する事件が起きた。報道によれば、教官らは生徒に殴る蹴るの暴行を働き、四十名の生徒が負傷したという。これをきっかけに、ネット上では生徒たちへの同情とともに、軍事教練制度に対する批判がにわかに巻き起こっている。とくに若者たちの意識は変わりつつあるようだ。もはや、上からの押しつけに黙々と従うだけの時代ではない。

長春だより

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