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台湾の「サービス貿易協定」反対運動 [東アジア・現代]

台湾のサービス貿易協定反対運動の続報。立法院(国会)を占拠中の学生はさらに昨夜、行政院に突入しようとし警官隊と衝突、多数の負傷者が出ている模様。丸腰の学生に対する馬英九政権の暴力的弾圧は、厳しく批判されねばならない。

今回の騒動の論点は、大きく二つあるように思う。一つは、中国との「サービス貿易協定」の内容自体の可否の問題。もう一つは、協定の調印・承認をめぐる民主的手続きが正当なものであったかどうかの問題。

情報が錯綜しているので速断は避けたいが、少なくとも後者の民主的手続きの問題において、馬政権はあまりに拙速に事を運ぼうとしたきらいがある。さもなければ問題がここまでこじれるはずがない。この点では、立法院を占拠している学生のほうに一定の理があるだろうし、馬政権が立法院占拠中の学生を実力で排除することに慎重なのもそのためだろう。

ただし、サービス貿易協定自体の内容自体については、台湾内でも理解に相当の差があるようだ。この協定が成立した場合、台湾の社会構造上、どの階層にどのような利益・不利益があるのかについては、はっきりと断定することができない。

現時点では、協定反対運動の主力は学生(および大学教員の一部)のようだ。学生たちは労働団体にストライキを呼びかけているものの、組合側の反応は鈍い。香港紙の報道では、全国労工連合総工会および中華民国全国連合総工会の責任者は、ストに参加しないことを明言した。台北市の産業総工会の理事長は前向きの立場だが、実施は不透明だ。高雄市の産業総工会の理事長はストは困難だとし、新北市の総工会理事長はストに反対している。
http://www.appledaily.com.tw/realtimenews/article/politics/20140324/365991/

そもそも、中国の市場経済をグローバル資本主義の中にどのように位置づけるかによって、台・中のサービス貿易協定の意味合いは変わってくる。そこを明確にしない限り、協定反対運動の本質もまたはっきりしない。

報道を見る印象では、協定反対運動の中に「反中」の色彩が濃いことも否定できない。参加者の中には明らかな排外主義者もいる。日本のネット右翼たちがこの運動を応援しているのもそのためで、「敵(中国)の敵は味方」といった感覚だろう。仮に、協定の相手がアメリカ(および中国以外の主要資本主義国)であったら、反対運動はここまで盛り上がっただろうか?

台湾の将来を台湾の民衆自身が決めるべきなのは当然だ。大陸中国の政権が武力侵攻の選択肢を否定していない以上、台湾の人びとがそれを不安に感じるのも当然だろう。台湾の大陸に対する経済的優位性も年々縮小している。その中で、台湾と中国の間の経済関係は拡大しており、人・資本・商品が活発に行き来し、台湾の多くの人びともそこから利益を得ている。台湾民衆の大陸に対する感情は人それぞれで、複雑だ。

台湾でのサービス貿易協定反対運動については、中国のメディアも報道しているが、政治的に敏感な問題であるため、かなり控えめだ。なお中国のネット世論ではこの運動を反大陸の政治的陰謀として白眼視する向きも強い。

丸腰・非暴力の学生に対する馬政権の暴力的対応については強く抗議する。ただし、中・台のサービス貿易協定自体をめぐる問題について、早急な決めつけは避けたい。ましてや、日本人が自分の(潜在的な)「反中」意識を台湾の大衆運動に投影している有様には、違和感を禁じ得ない。

グローバル資本主義への抵抗運動は、生存権=人権を根拠としなければならない。そこに排外主義を交えることは、結局運動の自殺行為となるだろう。中国大陸10億の民衆といかに連帯するかが問われている。

長春だより

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