SSブログ

「琉球帰属問題」の突発と東アジア [沖縄・琉球]

中国共産党機関紙『人民日報』が8日、「琉球の帰属問題」についての論文を掲載したことをきっかけに、中国メディアではこれをめぐる論議が過熱気味になっています。

『人民日報』系列の『環球時報』は11日の社説で、「もし日本がついに中国と敵対することを選択するならば、中国は従来の公式的立場を変えることを考慮すべきだ」とし、琉球帰属問題の再提起の必要を述べたうえで、「もし日本が中国の勃興を破壊する急先鋒となるならば、中国は将来実力を投入して、沖縄地区において『琉球国を恢復する』力を育成すべきだ」と主張しています。
http://opinion.huanqiu.com/editorial/2013-05/3924225.html

さらに中国の国営通信社「中国新聞社」は14日、中国戦略文化促進会常務副会長兼秘書長で少将の肩書を持つ軍人のインタビュー記事を配信し、「琉球は台湾列島の一部であり、中国の一部であって、絶対に日本のものではない」、「琉球国の国民の大部分は中国の福建、浙江および台湾の沿海住民に由来する。沖縄県の多くの人たちは今でも福建語を話し、彼らの使う文字も多くは漢字である」、などという奇怪な情報(?)を流しています。
http://news.sina.com.cn/c/2013-05-14/215327121500.shtml

さらにこれらのニュースサイトのコメント欄には、「琉球の独立を支援せよ」、「琉球を中国に取り戻せ」といった勇ましい書き込みがあふれかえっている状況です。

中国メディアから突如噴出した「琉球帰属問題」に対して、沖縄の二紙は12日と13日に相次いで社説を発表しました。「結果的に日中間の無用な対立をあおり、自国民の反日感情をエスカレートさせていることは、極めて非生産的な行為だと認識すべきだ」(『琉球新報』社説)、「領土問題や歴史認識で主張が対立し、日中両国に偏狭なナショナリズムが広がっている。これ以上、問題を複雑にしてはいけない。対立をエスカレートさせるような行動は、厳に慎むべきである」(『沖縄タイムス』社説)。私もまったく同感です。
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-206462-storytopic-11.html
http://www.okinawatimes.co.jp/article/2013-05-13_49179/

『琉球新報』社説が指摘しているように、今の沖縄をめぐる問題の根源は、「日本政府が民主国家のらち外に沖縄を置き続けている現状」にあります。普天間移設問題やオスプレイ配備をめぐって、沖縄の人びとの意志は無視され続け、人権が剥奪されています。そこで沖縄の人びとは、憲法と民主主義に基づく自己決定の権利を要求しているわけです。

ところが『人民日報』や『環球時報』の「琉球再議」論は、中国と日本・アメリカとの国際的なパワーゲームにおけるカードとして沖縄を利用する、という意図から書かれています。そこには、沖縄の人びとが今現に何を願っているかについての配慮など、みじんもみられません。

沖縄は近代の150年、いや島津の琉球侵攻以来400年もの間、大国の狭間で苦難の歴史を歩んできました。沖縄戦で途方もない犠牲を強いられたあげく、戦後は米国の世界戦略の軍事拠点とされて、今なお抑圧が続いています。もう二度とあの戦争の悲劇を繰り返さないこと、それが沖縄の人びと全てにとって最低限の願いであるはずです。ところが、大国間の危険なパワーゲームに、沖縄は今また巻き込まれようとしています。まさに胸がつぶれる思いです。

今回の「琉球帰属問題」の出現は、もちろん尖閣(釣魚)をめぐる日中間の対立の激化に促されたものですが、それはきっかけにすぎないとも言えます。ヨーロッパと異なり東アジアでは、「戦後」の処理がいまだ十分に行われていません。戦後の日本は米国一辺倒を続ける一方、アジアの諸隣国との関係をなおざりにし、戦争責任の問題も積み残してきました。そのため、東アジアの秩序は米国の軍事支配によってなんとか維持されているにすぎず、その本質は非常に不安定で脆いのです。

安倍政権は、ただでさえ不安定な諸隣国との関係をさらに破壊し、自ら対外危機を醸成することで権力を維持しようとしています。権力者のそうした火遊びによって真っ先に被害を受けるのは、ほかならぬ沖縄です。
-|沖縄の自己決定の模索と東アジア ブログトップ

長春だより

Copyright © 2013 OTA Hideaki All Rights Reserved.

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。